詐欺師だなんて言われてたって



どうせアイツも、ただの人間なんだよ。















「 」は「 」















朝。私の隣の席は大抵空席。だって座るべき人が居ないんだもん。



いっつものことだから、誰も騒いだりしない。「ああ、またか」その程度。



まぁ、一部の女子は結構何か言ってるけどね。



たまたまその日は気分が冴えなくて、ちょっと先生の前で具合の悪いふりをしたら



あっさり保健室行きを許可してくれた。(やっぱり女子には甘いな、この先生)



お言葉に甘えて保健室・・・じゃなくて屋上へ行く。だって気分なんか悪くないし。



屋上の扉を開けると全身に思いっきり吹き付けてくる冷たい風。(ちょっと寒い)



一歩足を踏み入れた瞬間、上からアイツの声が聞こえてきた。






「なんじゃ、お前さんもサボりか」



「うっさい。来てるんなら授業出なさいよ」






お前さんに言われたくなか、とか言って再び上で寝っ転がる「詐欺師」。



私だってアンタに言われたくないわよ、って言いたくなったけど



それを言ったらエンドレスだと思って何も言わずに貯水タンクに背中を預けた。






結構な時間が経過した時、今まで寝っ転がっていた奴が欠伸をしながら起き上がった。



さっさとどっか行っちゃえ、とか思いつつ瞼を閉じる。



すると、微かに聞こえた足音がだんだん大きくなっていった。



うわぁきやがった。なんて失礼な事を思いながらも、徹底的に無視を決め込む。



するとすぐ近くで足音が止んだ。だけど、無視無視無視。






「おい、。ちょっと起きんしゃい」






何で起きなきゃいけないのよ。アンタの命令なんか絶対聞かないから。






「起きとんじゃろ?」






起きてませーん。ってか、何で分かるのよ。






「眉間に皺が寄っとる」






ああ、そうですか。そりゃ、アンタが近づいてきたからだよ、うん。






「なぁ、暇つぶしにトランプせんか?ババ抜きとか」






二人でババ抜きやってどうすんのよバーカ。



緊張するのなんてせいぜい、最後の3枚になった時だけでしょーが。一人でやってろ。






「俺が負けたら・・・そうじゃなぁ・・・」






何勝手に話進めてんの、この人?誰もまだするとか言ってないんですけど?






「昼飯一週間、おごってやってもいいぜよ」



「・・・その話、本当でしょうね?」





思わず魅力的な賞品に釣られて、声を発してしまった。



そしてゆっくり目を開け、私の横でトランプを繰りながら立っている「詐欺師」を見る。



するとソイツは「勿論」と言ってニヤリと笑った。






「嘘だったら承知しないわよ」






そう言ってやっと私は体を起こす。



すると「詐欺師」はその場に座りこんで早速カードを交互に配り始めた。



正直、二人なんだから一気に半分にして渡せば良いと思うんだけど・・・。



そしてカードを配り終えて、ババ抜き開始。



私から始まって、当然のように次々とカードは無くなっていく。



そして最後の3枚。今の所、ジョーカーは仁王。って、ホントにつまんないなコレ。






「私がこれでハートのエース引いたら、ホントに昼食一週間分よ?」



「わかっとるわかっとる」






そう言いながら余裕の表情で笑うソイツに、少なからずムカついた。



そして早く終わらせようと思いながら左のカードを引く。



そのカードは残念なことにジョーカーだった。






「まだ終わらんみたいやのぅ」



「うっさい」






そう言いながら後ろでコソコソをカードを混ぜ、再び前に差し出す。



すると「詐欺師」はあっさり右のカード(ジョーカー)を取った。



再びチャンス。






「あーあ。残念」



「その棒読み止めてくんない?なんか腹立つ」






そして混ぜ終わって差し出されたカードの右側のカードを引く。



これまたジョーカーでかなりイラついた。






「案外、運ないんじゃな。



「ちょっと黙ってくんない?ってか、早くカード引いて」






こんなやり取りが10回ほど続いた。



いつまでもハートのエースが引けず、正直私は怒る寸前だった。



もう勝てなくていいからこの下らないゲームを終わらせたい。そう思うほどに。



私の怒りを知ってか知らずか、「詐欺師」はククッと喉の奥で笑う。



それを見てとうとう私の怒りは頂点に達した。






「ああ、もうっ!止めよ、止め!ったく、全然勝敗つかないじゃないの!」



「何言っとるんじゃ?とっくに勝敗なんかついとるよ」



「は?」






意味の分からない言葉に余計イラつきながら、ソイツを睨む。



するとソイツは「俺の勝ちでな」とか言った。






「ふざけてんじゃないわよ。いつ私がアンタに負けたの?」



「勿論、残りが3枚になった時に決まっとるじゃろ?」






コイツ・・・頭おかしんじゃないの?






「バッカじゃないの?3枚になった時、アンタがジョーカー持ってたじゃない」



「・・・誰が最後にジョーカー持ってたら負けって言ったんじゃ?」



「はぁ?」



「じゃから」






誰がババ抜きなんて言った?と、目の前のソイツはそう吐き捨てやがった。



誰って・・・







「アンタよ、アンタ。自分の言ったことくらい覚えてなさいよ」



「俺はそんな事言っちょらん。『ババ抜きとか』って独り言言っただけじゃ」



「な、んですって・・・?」






私はすぐさま「詐欺師」の持っていたカードをひったくった。



するとソイツが持っていたのは2枚のジョーカー。



こんなの・・・私が勝つわけないじゃない!






「俺はずっとジジ抜きのつもりじゃったんやけどのぅ」



「普通はお互いがジジ抜きって分かっててやると思うんだけど?」



「すまんのぅ。てっきりなら分かると思ったんじゃが・・・



いつまでも気付かんもんじゃけん・・・つい続けてしもた」



「ッ・・・!////」






確かに。普通に考えたらあそこまでババ抜きが続く訳がない。



ある意味、コイツが私の持っていたハートのエースを取らなかった事は奇跡だけど。



目の前の奴に対する怒りと自分の鈍さを恨んでいるせいで、ものすごく不快。



今私、すっごくブスかも。






「と、いう訳じゃ。俺の勝ちじゃから・・・『お試し期間一週間』」



「は?何ソレ?聞いてないわよ」



「そりゃ言ってないんじゃから当たり前」






こいつホント常識とか通用しない。マジむかつく。



でも、コイツだって『昼食一週間分』のリスクを背負ってやってた訳だし・・・



ちょっとだけ鈍かった私にも非がある気が・・・しないでもないし



少しくらいならいいか。






「で?何の『お試し期間』なのよ?」



「勿論、恋人の」






なんてベタな・・・。まぁ、この際丁度いいかもしれない。






「別にいーけど・・・やり方、周りくどくない?」



「そうかのぅ?お前さんにとっても、結構助かったんじゃなか?」



「・・・うっさい」






こうして『お試し期間』がスタート。



「詐欺師」とか言われたって、やっぱり「人間」。だという事がその間に分かってきた。



やり方は普通じゃないけど・・・やっぱり気持ちを伝えたいとか思うんだ。



まぁ、私も似たようなものだけど・・・。



『お試し期間』が終わっても、私は彼・・・仁王の「人間」の面を知り続けた。



例えどんな風に呼ばれてたって、「人間」は「人間」。本質は変えられない。



仁王と付き合って、なんとなくそんな事を思った。















「仁王」は「仁王」 「わたし」は「わたし」















あとがき


久々の短編!意味不明度急激UP!

でもタイトルだけは無駄に気に入ってたりします。(何故

「 」は「 」(かっこはかっこ)