「「「「「キャー!跡部様〜!!!」」」」」
……遠い…。





距離





ここはテニスコート。
そして、目の前には人だかりが出来ている。
もちろん、全部女の子。
お目当ては、生徒会長でありテニス部部長の跡部様…。
先ほどから、五月蝿いほどの声援(?)を送っている。


「跡部様、かっこいい〜!!!」
「きゃー!また決まった〜!!!」


実はわたしも、その跡部様が好きだったりする…。
でも、彼とわたしとでは住んでいる世界が違う…。




遠すぎる…。




「チッ、メス猫共が…」
「まあまあ…、そない言うもんやないで…。
向こうは応援しとるつもりなんやろ…」
「あんな耳障りな応援があるかよ」


跡部と忍足がこんな会話をしているのも知らず、黄色い声は
テニスコートに響き続ける。
はそんな軍団から離れた、木の影に座って
じっとテニスコートを眺めていた。


「……なにやってんだろ…、わたし」


軍団が邪魔で、テニスコートなんて全然見えない。
それでも毎日ここへ来ては、テニスコートの方を向いて
じっと座っている。これの繰り返しだった。


「…帰ろ……」


いつもは、練習が終わるまで居るけれど、
今日は何故か、そんな気分になれなかった。
そしてわたしは、テニスコートに背を向けた…。

















* * * * * * * * * * * *
翌日、学校へ着くと友達のがこっちに走ってきた。


「おはよう、
「おっはよう!!…じゃなくて!」


なにか聞きたそうな。不思議そうに首をかしげると、
がいきなり口を開いた。


「昨日…何かあった?」
「はあ?別に何も…」


訳の分からない質問。


「どうしてそう思うの?」
「…だって、昨日練習が終わる前に帰ったでしょ?
だから…」


実ははテニス部のマネをしていて、わたしは終わるまで居るから
たいてい、一緒に帰っている。


「ああ…。昨日は、なんとなくそんな気分じゃなかっただけ」
「そう?それなら良いんだけど…」


はわたしの気持ちを知っている。
だから、こんなに心配してくれるのは、なんだか嬉しい…。


「心配しなくても、大丈夫!なんかあったら、相談するから」
「うん!絶対だよ!」


小さな約束をして、わたし達は教室へと向かった。
今日も…あの人と一回でも多く、会えますように……。






















気がつけば、もう放課後。
外からは部活動の元気な声が聞こえてくる。
跡部君も…、今ごろ頑張って練習してるのかな……。


「おい、
「はい?」


先生に呼び止められ、歩みを止める。


「教室にある書類を、職員室まで運んで欲しいんだが…」
「ああ、良いですよ」


どうせ行っても、女の子達の背中しか見えないんだし…。
たまには良いか…。
わたしは先生と別れ、教室へと戻った…。


















ガラッ


教室へ戻ってきたわたしは、扉を開け、中へ入る。
教室は人影もなく、静まりかえっていた。
先生の机の上に書類があるのを発見し、急ぐこともなさそうなので
先生の椅子に腰を下ろした。


「あっ、なんかいい感じ…」


先生の椅子はクッションが敷いてあって、座り心地が良い。
わたしはそのまま、外へと目を向けた。
いつもは見えないテニスコートが、上からだと良く見える。
わたしの目はいつの間にか、跡部君を探していた。


「あれ?」


居ない。いつもは腕を組んで、部員の様子を見ているか
忍足君とかと打ってるのに……。
折角、いつもの軍団が居なくて、彼の練習姿を見れるのに…。


「…どこ行ったんだろ、跡部君……」
「俺様なら、ここだが?」




















え?


振り向くと、そこには紛れもない
わたしの好きな跡部君が立っていた。


「あ、ああああ跡部君!!!」
「俺様は、そんなユニークな名前じゃねぇ…。
ところで、俺様に何か用か?あーん?」
「えっ!あ、いや、その……」


あ〜もう!なんで名前なんか出したのよ!わたしのバカ!!!
彼のブルーの瞳に見つめられて、思わず体が縮こまる…。
跡部君はと言うと、何だかわたしの反応を見て、楽しんでいるようで…。
と、とりあえず……


「せ、先生を運ぶように、書類に頼まれて…!」
「………くっ…」
「?!」


すると跡部君は口を押さえて、ククククク…と、笑いだした。


「な、何が可笑しいのよ!」
「お、お前…書類と話でもできるのかよ…」
「えっ!?」


出来るわけない。そう思い、自分の言ったことを思いだしてみる。
間違えに気付いた途端、急に恥ずかしくなった……。
跡部君が笑うのも、当然だ…。


「で、先生は運ばなくていいのか?」
「〜〜〜〜〜〜////」


嫌味っぽく言ってくる跡部君。
早くこの場から、逃げたい…!


「あっ!もう、こんな時間!先生、運ばなくちゃならないから、
さようなら!跡部君!!!」


わたしは椅子から勢い良く立ち上がり、教室から出ようとした。


「待てよ」






がしっ






「え?」


気付いたら、跡部君がわたしの腕を掴んでて
なぜか逃げられない状態に…。
って、ん?
跡部君がわたしの腕を掴………。










「きゃああああああああああ!!!!!////」
「は?オイ!!!!」


恥ずかしさのあまり、わたしは跡部君の腕を全力で振り解き、
家へと走って帰った…。


あ、書類……。
ま、いっか………。(オイ





「ちっ、逃げられたか…」


跡部の小さな独り言…。




つづく






あとがき


はい、跡部ドリでございます。
多分続くと思われます。続きは後ほど…。