桜よ、桜。
どうかこの思いを…彼に届けて下さい。
桜舞う
桜が舞う。そして、初々しい空気の漂う入学式。
花の女子高生になったわたしは、入学式の間
これから始まる高校生活に期待を膨らませていた。
厳しい受験を乗り越えたんだ。思いっきり楽しんでやる!と
一人で勝手にはりきっていた。
「桜よ!もっと舞い散れ!!!」
テンションが上がったわたしは、呪文のようにそう言った。
言ったからといって、その通りにはならなかったけれど
桜の舞い散る中で、わたしは上機嫌だった。
踊るようにはしゃいでいると、後ろに下がった時に
何かにつまずいた。
「うわっ!」
景色が変わる。両足が宙に浮くかと思ったその時
「何やってんだよ」
「えっ!?」
誰かが後ろで支えてくれた。
お陰でわたしは後ろ向きにこける事はなかった。
急いで体制を立て直し、支えてくれた人の方へ向き直る。
その人は…
「外国人ですか…?」
「は?」
綺麗な綺麗なブルーの瞳。
そして茶色がかった美しい髪…。
わたしには充分に外国人に見える容姿だった。
なによりすごい美形だ…////
「あっ…えっと、いや…!ご、ごめんなさい!!!」
彼の呆れたような声に、はっとする。
助けてもらっておいての第一声がそれか!と、自分の中で後悔した。
ああ…絶対変な奴だと思ってるよ…。
「…くくっ……」
「?あ、あの〜…」
正直怒られると思ったのに、彼は笑った。
おかしそうに…まるで面白い物にでも出くわしたように笑う。
不思議そうに彼を見ていると、笑い終わった彼と目が合った。
「お前…名前は?」
「え…わたし?」
「お前意外に誰がいるんだよ」
いきなり名前を聞かれて、不思議に思わない人はいないと思う…。
一応助けてもらったのだし…名前を言ってもいいかな、と思った。
「 です…」
「だな…。俺様は跡部 景吾だ」
それだけ言うと彼は、この場を立ち去ろうとした。
けれど…状況がよく分かっていないわたしは、彼に向かって叫んだ。
「ちょ、ちょっと!待ってよ!」
「あーん?なんだよ…」
少しだけだるそうな顔をした跡部という男に、わたしはもう一度叫ぶ。
「あ、ありがとう!助けてくれて!」
本当なら、最初に言っておかなければならなかったお礼を言った。
彼は少し驚いたような顔をして、フッっと笑った。
「どーいたしまして…」
今更か…というような声で彼は言った。
その時の彼の笑顔はとても綺麗で…
出会ったばかりの人に、わたしは見惚れてしまった…。
これが恋だと気付くのに、そう長くはかからなかった…。
あれから早1年…。わたしは引越しする事になった。
やっと友達も増えてきて…これからという所だったのに…。
「…引っ越してもわたし達の事忘れないでね…」
「引っ越してもメールしようね!」
「ま、まだ早いってばぁ〜…」
引越しは終業式の日。それまであと3日はあった。
正確に言うと、あと3日しかない…。
やり残した事はたくさんあるけれど、
わたしにはどうしてもやっておきたい事があった。
それは…
「で…俺様に用事ってのは何だ…?」
今年の桜は早かった。終業式だというのに、桜は咲き乱れている。
そして、わたしのやっておきたかった事というのは…告白。
入学式のあの日、一目惚れしたあの跡部 景吾への…。
「うん…実はね……」
ふられるのはわかっていた。でも、せめて言っておきたかった。
ふられれば、心残りはなくなるから…。
言うだけ、言っておきたかった…。
「わたし、あなたの事が…好きでした!」
「付き合って下さい」と、本来は言うんだろうけれど
わたしは引っ越してしまう。そんな事を言っても仕方がないと思った。
顔を上げ、彼の顔を見る。
彼は表情を変えなかった。きっと、彼にとって告白など日常茶飯事なので
特別驚く事はなかったんだろう…。
「またか…」と、そう思っているに違いない。
ああ…早くふって下さい。
「……それだけか?」
「へ?」
それだけ…?他に何を言う事があるのだろう…。
「好きだったから…どうなんだよ?」
「えっ…いや…その……」
好きだった。だから、どうという訳でもない。
ただ、自分の気持ちを伝えたかっただけだ。
「お前…つくづくどこか抜けた奴だな…」
「ぬ、ぬけっ…!?」
それって間抜けって事ですか…?
少しむっとして、彼を見ると
彼はおかしそうに笑った。
ああ…この笑顔。この笑顔に、わたしは惚れたんだ…。
「もし…」
「え?」
「もし、俺がお前の事を好きだと言ったら…どうする?」
その言葉を聞いて、いきなり心拍数が上がる。
「もしも」の話なのに…そんな事あるはずないのに…。
思いとは裏腹に、期待してしまう自分がいる。
馬鹿馬鹿しい…あるはずないのに…。
彼を見ると、意地悪そうな顔をしていた。
わたしの反応をみて、楽しんでるんだ。期待しては、いけないんだ…。
「ど、どうもしないよ…」
「なら何で、告白なんかすんだよ?」
彼の言う通りだと思う。
好きだと言って、相手からも好きだと言ってもらえたのに
付き合わないのなら、告白なんて意味がない…。
ただ思いを伝えたかっただけ…そんなの確かに迷惑なのかもしれない…。
でも、付き合ったとしても、わたしは引っ越すんだ。
離れ離れになる…。
「め、迷惑なら迷惑って言ってよ!」
「だれも、迷惑だなんて言ってないだろ」
どうして「もしも」の話で、こんなに悩まなければいけないんだろう…。
本当の事…「迷惑だ」とか「嫌いだ」と言ってくれれば…それで済むのに…。
「ふるなら…っ……早くふってよ…」
声は震える。情けないとは思っているのに、涙が溢れた。
たった一言言ってくれれば…それで終わりに出きるのに…。
「お前は…ふって欲しいのかよ?」
「っ…!」
ふって欲しい。そんな訳がない。
好きなのだから、ふって欲しいなんて矛盾してる…。
「お前がふって欲しいのなら、ふってやる…。俺はお前なんか、嫌いだ」
ふって欲しいのなら…そんな言葉、付け足さないで欲しかった。
まるで、わたしの気持ち次第で「好き」だと言ってやる。とでも言っているようだ。
「ふって欲しいのならって…妙な言い方しないでよ!」
「だったら、どう言えっていうんだよ!」
彼の口調が強くなったので、一瞬肩が震えた。
恐る恐るも、彼の顔を見て言う。
「期待させるような言い方は止めて!って言ってんのよ!」
力一杯叫んだ。涙がボロボロ流れ落ちた。
「…期待なんかしなくて、いいんだよ」
「えっ…?」
しなくていい。と言う事は、期待するまでもない…という事だろう。
つまり、ふられた。これで、いいんだ…。
「初めから…そう言ってよ…」
終わった。これで安心して引っ越せる。
「じゃあね」
そう言って、わたしは彼に背を向けた。
しかし、歩み出そうとした足は彼の言葉によって、止まってしまった。
「おい、何逆の意味でとってんだよ」
「ぎゃ、逆…?」
そしてわたしは、再び彼の方へと顔を向けた。
彼は少し不機嫌そうな顔をしていた。
「期待なんかしなくていい…。つまり、実際に俺はお前の事が好きなんだから
「好きなのかもしれない」って期待はいらねぇって事だよ」
「なっ…////」
「頭悪いな」とでも言いたそうな彼の言葉を、わたしはちゃんと理解した。
といっても、実際頭に入っているのは「俺はお前の事が好き」の所だけ。
都合の良い耳を持って幸せだと、少しばかり思ってしまった。
「そ、それって…////」
「ま、めでたく両思いって事だ」
両思い…信じられない言葉だった。
ふられる事を前提に考えて告白したのに…まさか両思いだったなんて…。
嬉しい。すごく嬉しい。でも…
「あ、あの…」
「あーん?何だよ」
「告白しといて何なんですけど…わたし、今日引っ越すんです…」
そう、わたしは今日引っ越す。
別に外国へ行くわけではないから、会えない事はない。
でも、関東にはさよならする訳だし…会うのは難しいだろう…。
うぅ…きっと怒ってるよなぁ〜…。
恐る恐る彼の顔を見ると、驚く事に表情一つ変えていなかった。
「それが、どうしたんだよ?」
「えっ…ですから…引っ越すので、この学校から居なくなるんですよ」
「引っ越したからって、付き合えない事はないだろうが」
「で、でも…!」
「チッ…ほらよ」
彼が差し出したのは携帯電話。
意味が分からず、彼の顔を見ると
彼は呆れた顔をした。
「だから…お前の携帯の電話番号とメルアド入れとけって言ってんだよ。
それなら…いつでも連絡取れるだろ?」
意外な言葉に、一瞬固まってしまった。
あの、跡部 景吾とメール…?電話…?
「れ、連絡くれるの…?」
「当たり前だろ…。ったく…ホントお前、どこか抜けてるよな」
その瞬間、嬉しさが込み上げてくるのを感じた。
わたしは彼の携帯を手に取ると、電話番号とメルアドを登録した。
そして、彼に言われてわたしの携帯にも、跡部の電話番号とメルアドが登録された。
確かに引っ越しても…恋愛はできる…。
引っ越すというだけで諦めていた自分を、少し情けなく思った。
「いつまで、ここにぼさっとしてる気だ?行くぞ、」
「う、うん!////」
桜よ、桜。もっと舞え。もっと散れ。
その美しい花びらで、2人を包んでください。
やっと繋いだ2人の手が、離れないように
その花びらで、優しく包みこんで下さい。
桜舞う春の日に。
おわり
あとがき
ぎゃあぁぁぁあ!!!意味不明度Max!!!
途中で書いてるわたしでさえ、意味が分からなくなってきた…。
最初、悲恋にするつもりだったんだけど、やっぱ無理かなと思って甘に変更。
まだ、春物書いてない事に気付き桜ネタ。
春はいいよvv春休みがあるから!(ぇ