「おい、…」
「あ」





すぐそこに…





昨日、跡部君の前で意味不明な行動をとり
しかも、先生に頼まれた仕事をすっぽかしてしまいました…。
もちろん、学校に着いてすぐに、先生に捕まりました。


「お前、書類運ぶの忘れたろ?」


出会ってから、あいさつも無しですか?
とりあえず、本当の事を話してみます。


「いや、覚えてましたよ!?でも、運べなかったんです」
「…覚えてたのに、何ですっぽかした?」


くどい。このままでは、永遠にぐちぐち言われそうだったので
この先生が新婚だということを利用して…


「……………あっ!先生の奥さんが、門の前で迷ってますよ!」
「何いぃぃぃ!?あれほど学校のは来るなと言ったのにいぃぃぃ!!!」


作戦は大成功。
待ってろよー!とか言って、先生は走り去って行きました。


「いえーい!作戦成功!!!」
「後が恐いがな」


























What?今のはあたしの声じゃないよね…?
後ろを見ると、今は出来るだけ会いたくないと思っていた
跡部君がいました…。


「ぎゃ!!!い、いつのまに?」
「俺は化け物か?ついさっきだよ…」


先生の慌てようが面白くて気付かなかった…。
早くこの場から去りたい…。


「じゃあ、あたしはこれで…」
「待て」


逃げようとすると、またもや跡部君に腕を捕まれた。
振り払おうとするけど、昨日のようにはいかない。


「は、離してよ!!」
「…どうしてそんなに、嫌がるんだよ…」
「え?」


跡部君の声が少し低くなったので、思わず動きが止まる。
跡部君の顔を見ると、ばっちり目が合った。
どこか、悲しそうな目をしていて…
こんな跡部君は初めて見た…。


「そんなに俺が嫌いなのかよ?」
「はあ?」


違う。嫌いなんかじゃない。
むしろ好き。好きなんだ…。


「違う!嫌いなんかじゃないよ!!!」
「じゃあ、どうして逃げるんだよ」
「…そ、それは………」


好きだから。恥ずかしいから。
そんな事言えない。


「…………………」
「言えねぇのかよ?チッ………」


跡部くんは舌打ちすると、わたしの手を離して
離れて行った。
絶対、誤解されている。わたしは跡部君の事、本当に好きなのに…。


「ちょ、跡部君!」


追い掛けたい。本当の気持ちを知ってもらいたい。
なのに足が動かない。声はこんなに、出るのに…!


「跡部君てばっ!」
「……うるせぇ」


振り向いた跡部君の目は、すごく冷たくて…
肩がビクッと振るえた。
その後、わたしは何もすることが出来なかった。
ただ、彼が去っていくのを見る事しか…。



























その日は、ほとんど授業の事が頭に入らなかった。
戻ってきた先生の怒った声も
心配してくれたの声も、全然頭に入らない…。。
わたしの頭の中で響いているのは、跡部君の冷たい言葉…。
昨日の会話が嘘のようで…。胸がすごく苦しくて…。
やっぱり、この恋は実らないのかな…。












「あ。いた、いた」
「はい?」


もう、帰ろうと思っていた時
テニスコートの方から、テニス部の人がかけてきた。


 ちゃん…だよね?」
「はい。そうですけど…何か?」


こんな人なんか知らないし
どうしてわたしの名前を知っているんだろう…。
ちょっと気味が悪かった…。


「ちょっと、いいかな?」
「?いいですよ」


訳がわからないまま、わたしは人気の無い体育館裏へと連れていかれた。
その人は、未だに自分の名前も言わず、何の用なのかも言わなかった。


「ここでいいかな…」
「あの…それで、何の用ですか?」
「ああ、実は俺と付き合って欲しいんだけど」
「えっ!?」





一瞬、彼の言った言葉が信じられなかった。
今まで、告白なんてされたことが無かったわたしにとって
混乱させるには充分の言葉だった。


「実は前から狙ってたんだよね。の事」
「えっ?でも、はぁ?」


一方的に喋ってくる。わたしは未だに、混乱している。


「いいじゃん。跡部には、ふられたんだろ?」
「なっ」


ふられた?いや、それ以前にどうしてわたしが、跡部君の事が好きだって
知ってるわけ?


「で、返事は?」


この人の事は、全然知らない。
でも、さっきの言葉に心が揺れる。
ふられた。嫌われた。もう、昨日のようには話せない。





「…は「いいえ、だ」
























ん?わたし今、「はい」って言おうとした…?
でも、誰が断った?


「げっ!跡部!!!」
「えっ!?跡部君?」


彼の視線の先には、確かに跡部君が居た。
でも、どうして…?


「部活中になに抜け出してんだ!さっさと戻れ!!!」
「!わ、分かったよ」


跡部君に怒鳴られて、わたしに告ってきた人は
テニスコートへと戻って行った。
よかった…。返事しなくて、済むかも…。


「おい、
「はい!!!」


ちょっと安心していると、跡部君に話しかけられた。
すごくびっくりして、声が裏返ってしまった…。


「お前、あんな奴が好きだったのかよ?あーん」
「えっ!ち、違うよ!!」
「ならどうして、「はい」なんて言おうとしたんだよ」
「そ、それは…」


自分でも後悔してる。混乱してて、どこか寂しかったとは言え
好きでも無いのに「はい」なんて言おうとした…。
でも、こんな事言ったらきっと、軽い奴だと思われる…。
そんなの嫌だ。







「…悪かったな。せっかく両思いになれる機会を邪魔して」
「はあ!?」


黙っていると、跡部君は眉間に皺をよせ
低い声でそう言った。
違う。あんな人、好きでもなんでもない。
好きなのは………


「じゃあな」
「ちょ、待っ…!」


行かないで。


そう言う前に、わたしは跡部君の腕を掴んでいた。




「わたしが好きなのは…跡部君だけ……」




涙が溢れて、声が震えて…。
きっと酷い顔だと思うけど、やっと言えた。
跡部君の気持ちも、やっと聞ける。


「やっと、言ったか…」
「は?」























やっと、言ったか…?
何それ?どゆこと?
顔を上げると、跡部君が不敵に微笑んでいた。


「ったく、お前以外としぶといな」
「すみません…。何の事ですか?」
「ま、簡単に言えばお前は
 まんまと俺の芝居に引っかかったんだよ」
「し、芝居!?」


それじゃあ、あの冷たい目も、低い声も
全部演技!?


「じゃあ、あの人も?」
「いや、あいつは知らねぇ。ま、ちょうど良かったけどな」


なんか、可哀想…。
んで、今気がついたんだけど、立場が逆転して跡部君がわたしの腕を掴んでいる。


「あの…。もうそろそろ、帰らせてもらえませんか?」
「あーん?何言ってんだよ。俺様と帰るんだろ?」
「えぇ!?」


当然のように言う跡部君。
でも、どうしてか分からない。


「本当にお前、鈍感だな…」
「ど、鈍感!?そ、そんな事…!」
「じゃあ、これなら分かるか?」
「え」







がばっ







気付けば、わたしは跡部君の腕の中に居た。
顔が熱くて、身動きが取れない。
でも、すごく嬉しい。


「ちょ、跡部君!!!////」
「いくらお前でも、これで分かったろ?」
「だから、何が!?////」
「チッ、つまり、お前が好きだって言ってんだよ」
「す」





好き!?


「…まさかこれも、芝居じゃあ…」
「んなわけねぇだろ。んじゃ、今日も終わるまで居ろよ」
「うん!って、待て!」
「あーん?なんだよ」
「どうしてあたしが、部活が終わるまで居るって、知ってるの!?」


確かあそこは、コートから見えないはず…。


がたびたび、コートの外を見てんだよ。
ちょっと気になって、見てみたらお前が居た」


!心配してくれてたんだね!ありがと〜!!!


「その日から、どうしてもお前が気になってな…。
多分、その時から惚れてたんだと思う…」
「〜〜〜〜〜////」


惚れてる…って…。なんか、はっきり言われると恥ずかしいな…。


「また、あいつみたいな変な野郎に声かけられないようしろ
 わかったな、
「////分かった。待ってるね!」


その日、わたしは跡部君と一緒に帰った。
もちろん待っている間、彼のテニスをしている姿をちゃんと見ていた。
正確には女の子達で見えて無かったけど、
わたしの瞳には、ちゃんと映ってるんだ。
あなたまでには、女の子達とかフェンスとか、いろいろあるけど
手を伸ばせば





あなたがいる。





おわり




あとがき


跡部の続編、完成です!
意地悪な跡部が書きたかっただけです。はい。
ここまで読んで下さって、ありがとうございました!