いつの間にか、屋上へ行くのが習慣になっていた。
理由は……
鳥のように
「柳っ!一緒に昼飯食おうぜ!」
「悪いな。今日はデータの整理をしなくてはいけないんだ。
いくら仲間とはいえ、むやみにデータを見せる訳にはいかない」
「ふ〜ん…参謀も大変だねぇ…。じゃ、また今度な!」
「ああ」
丸井の誘いを断り、誰も居ないであろう屋上へと向かう。
そして扉を開けると、心地よい風が全身に当たる。
ノートを落とさないように、中に進むと
そこは誰もいない静かな空間だった。
「思った通り…誰も居ないな」
少しだけ優越感に浸りながら、上のタンクにもたれてノートを開こうとした時だった。
「あ〜、やっぱ屋上って最高っ!」
後ろの方から女の声が聞こた。
誰だろうと思い、俺はタンクの反対側を覗いてみた。
すると…
「あれ?もう一人お客さんがいる!」
「!!??」
相手もこちら側を見ようとしたらしく、
バッチリ目が合ってしまった。
見た所、俺の知っている人物ではないので
下の学年だとわかった。(←同じ学年の人は全員調べてる人
少し驚いている俺にはお構いなしに、相手は話しかけてくる。
「ここって良いですよねぇ〜wわたし毎日ここに来てるんですよ」
「…そうか」
「良い風は吹くし、居心地良いから…ずっとここに居たいくらい!」
「いや、それは駄目だろう」
「あ、やっぱり?」
何が可笑しかったのかは分からないが
彼女はいきなり笑いだした。
(不思議な子だ)
そう思い、名前を聞いてみる事にした。
「…名前、何て言うんだ?」
「え、わたしですか?」
「お前しか居ないだろう…」
「ハハッ!ですよね!わたし、 って言います!」
「か…」
「はい!あなたは…柳さんですよね?」
「知っているのか?」
「名前ぐらいは知ってますよ。有名ですから」
「…そうか」
「はい!」
何故かは分からない。
でも、彼女は狂ったように笑う。
そんな彼女に、俺は少しばかり興味を持った。
「あ、鳥…」
「ん?」
彼女がいきなりそう言ったので、俺は視線の先へと目を向けた。
すると、そこには空を自由に飛ぶ一羽の鳥がいた。
一体、これがどうしたというのだろう…。
「鳥って、いいですよね。わたし、生まれ変わったら鳥になりたいんです」
「鳥に…?何故だ?人間が嫌か?」
「いえ、嫌いじゃありませんよ。でも…一度でいいから自由に飛んでみたいじゃないですか」
「…そういうものか…?」
「そういうものです!」
そう言い放つと彼女は、立ち上がって下へ降りてしまった。
そして俺の方を向き、また笑う。
「柳先輩!これ以上居ると、遅刻しちゃいますよ!!!」
それだけ言い残して、彼女は屋上から去って行った。
彼女が去った後も、心地よく吹く風。
そんな風を全身に浴びながら、俺は結局整理できなかったノートを見つめた。
「サボるか…」
俺の初めてのサボり宣言だった。
* * *
「あ、柳先輩!」
「…」
「最近よく会いますね!ここ、気に入ったんですか?」
「ああ…そんな所だ」
あれから一週間。俺はほぼ毎日、屋上へ来るようになっていた。
そしてと遭遇し、少しだけ雑談をかわす。
これが習慣になりつつあった。
「ねぇ、柳先輩」
「…何だ?」
から質問を受ける事もしばしばあり
そのたびに俺は、の脈絡のない質問に答えている。
「前世と来世って…あると思います?」
いつも通りの脈絡のない質問。俺はそれに思った通りに答える。
「さぁな…。お前は?」
「あったらいいな、って思います」
は笑ってそう言った。
あったらいい…でも、前世と来世があったからと言って
今の自分が変わるわけでもないのに、何故はそう思うのか
少しばかり疑問に思った。
「何故そう思うんだ?」
「なんか気になりません?自分は前に生きていた時何だったのか…って」
「別に気にはならないな。今の俺には関係のないことだ」
「そうゆうもんですか?」
「そうゆうものだ」
そう答えると、は少し不満そうな顔をした。
そして俺の方を見ると、またにこっと笑った。
「なんだ…?」
「柳先輩って…前世も来世も科学者っぽいですよね」
「そうか…?」
「はい。なんか、やんちゃやってる柳先輩って想像できませんもん」
「…それは良かった」
が俺に、どんなイメージを抱いているのかは分からないが
妙な想像をされずに済んで、良かったと心底思う。
「わたしの来世は鳥が良いです!」
そしてまた訳の分からない事をいう、。
そういえば…鳥はいいとか言っていた気がする…。
「そんなの分からないだろう。それに鳥になれたとしても、今のお前には関係ない」
「そ、そりゃあ、そうですけど…。来世で良いから、飛びまわってみたいです」
まるで、本当に空を飛んでいるように笑うは
真剣にそう思っているようだった。
そんな彼女の笑顔を見て、俺はフッと笑う。
「…可笑しな奴だな、お前は」
「柳先輩といい勝負でしょ?」
「……」
なんとなくだが…
俺はこいつに勝てない気がした。
そのまましばらく黙っていると、が大きな欠伸をした。
そしてまたしばらくすると、後ろから寝息が聞こえてきた。
俺がそっとタンクの反対側を覗くと、
思った通り、が気持ち良さそうに寝ていた。
その幸せそうな寝顔を見て、俺はまたフッと笑う。
「鳥になれるといいな…」
どうせ鳥になる夢でも見ているんだろうと想像しながら
俺はまたノートを開いて、データの整理をはじめた。
「柳先輩…」
そう呟いたを好きだと気付くのに
そう長くはかからなかった…。
鳥のように自由な恋を
おわり
あとがき
初の柳夢!かなり訳分からない事になってます!
今気付いたんですが、柳お昼ご飯食べてませんね。(笑
初の年下ヒロインでしたが、微妙ですね…。
ま、次にかけますかw