一瞬見えた、眩しい光は偽物で…



わたしはまた、真っ暗な闇の中に引き戻された。















キミのタメ















周りから少し話し声が聞こえる、長い廊下を



わたしは黙々と歩いていた。



ほんの数十分前は、とても優しそうに見えた鳳さんの顔も



今では、笑顔さえも恐ろしい…。



正直の所、こうやって二人で歩いているのさえ恐怖を感じている。




早くこの人から離れたい。その思いが、どんどん膨らんでいる。



再び腰の拳銃に目をやると、恐怖で泣きそうだ…。










「…俺の事、恐いと思ってるでしょ?」



「えっ…!」






長く続いた沈黙を破って、急に鳳さんが話しかけてきた。



思った事をズバリと当てられて、わたしの心臓はドクリと脈をうつ。



そして、恐る恐る顔を上げると



彼は前を向いたまま、今まで通りゆっくりと歩いていた。






「そんなに恐がらなくて、良いですよ」






今更そんな事を言われたて…ちっとも安心できない…。






「あなたがちゃんと仕事をしていれば、殺したりはしませんし



逆に、ここに居れば安全なんですよ」



「あ、安全…?」






拳銃を持った人達がたくさん居るところの、どこが安全なんだろうか…。



そう言うと鳳さんは、一瞬わたしの方へ振り返って



また前を向いて歩きだした。






「戦闘が多いあの周辺に居たあなたなら…多分見ているハズですよ。



赤い血の海を



「っ…!」






それを聞いて、わたしは真っ赤に染まった荒地を思いだし



少し気分が悪くなった。






「さっきも話した通り、俺達は2つの勢力と対立して



毎日、殺し合ってます」



「だから…そんな所の、どこが安全だって言うのよ」



「よく考えてみて下さい。外に居れば



他の所の人達に殺されちゃうかもしれないんですよ?



それよりは、ここの方がよっぽど安全だと思いますが…」






妙に説得力があるのは、きっとこの人が



ここの世界で人を殺しながら生きてきたからだろう。




でも、わたしからしてみれば…ここに居ても殺されるかもしれないのだから



結局は同じ事のような気がする…。










わたしが俯いて歩いていると、急に何かにぶつかった。






「いたっ…!」



「着きましたよ」






わたしがぶつかったのは、どうやら立ち止まった鳳さん。



ちょっと横に移動して、ヒョイと顔を出すと



目の前の部屋で、雑用係だと思われる人達が洗濯をしていた。



思っていたより綺麗だったので、わたしはちょっと驚いてしまった。






「壇君。ちょっと来てくれる?」



「あ、ハイです!」



「(…です?)」






鳳さんがそう言うと、一人の少年が小走りでこちらまでやってきた。



小柄でとても可愛くて…物騒なこの世界にはとても似合わない子だった。






「この人は新しい雑用係。俺らは他の事で忙しいから…



君がいろいろと教えてあげてくれる?」



「はい、分かりました!」






そう言うと、雑用係の子はくるりとこちらを向いて



おじぎをしてきた。






「僕、壇 太一って言います!宜しくです!」



「わ、わたしは …!こちらこそ宜しく」






気迫におされて、ついわたしも頭を下げてしまう。



何となくだけど…この子とは仲良くなれそうな気がした。






「もう、大丈夫だね。それじゃ、俺は忙しいから戻るよ」



「はい!お仕事ご苦労様です!」



「…ご、ご苦労様…です……?」






壇と言う子がそう言ったので



わたしは疑問系になりながらも、鳳さんに向かってそう言った。



すると鳳さんは、フッと笑って






「ありがとう」






と一言残して長い廊下へと消えていった…。



先ほどまで恐怖を感じていた鳳さんの笑顔に



わたしは、少しドキッとしてしまった。









「それじゃ、お仕事始めるです!……さん?」



「はぇっ?」






名前を呼ばれ、ふと我にかえる。



鳳さんに見惚れるなんて…わたし、何してるんだろ…。






「えっ、あ、そうですね!始めましょうか!」



「はい!…と言いたい所ですが…まず、着替えないといけないですね」



「あ…そっか」






流石にパジャマ姿のままで働く訳にはいかないので



わたしは壇君に案内され、更衣室までやってきた。






「ちょっと待ってて下さい。ジャージ、持ってくるです!」



「ありがと。待ってるね」






そして壇君は、長い廊下を走って行ってしまった。



わたしは更衣室の中で壁にもたれて、壇君の帰りを待つ事にした。



けれど、誰も居ない更衣室で待つのは、かなり退屈。









ちょっとウトウトし始めた時、誰かがわたしの肩を叩いた。



壇君かな?と思い、わたしはふと顔を上げた。



そして目に飛び込んできたのは…







「お前…誰だ?」



「……うわっ!お、おかっぱ!?



「だ、誰がおかっぱだ!失礼な奴だなっ!」






可愛い壇君の姿を想像しながら、顔をあげたのに



目に入ってきたのは、変な色の髪のおかっぱ君だった。



そして、わたしが失礼な事を言ってしまったせいで



そのおかっぱ君はかなり怒っている…。






「えっと…ご、ごめんなさい!つい…」



「ついって何だよ!お前だって、変な服着てるじゃんか!!!」



「こ、これはパジャマ!変って言わないでよ!」






確かにパジャマ姿は可笑しいだろうけど…



だからって、パジャマ自体が変だというのは、かなり頭にくる。




その後も、わたしはそのおかっぱ君と言い合いをしていた。



すると、更衣室のドアが開き壇君が戻ってきた。






「遅れちゃって、ごめんなさいです!さ…ん?」



「ああ、壇君!このおかっぱ君、どうにかしてよ!」



「うるせぇ!おい、壇!この女何なんだよ!?」



「ふ、二人共落ちついて下さい!」






そして、壇君によって制止させたれたわたし達は



お互い顔を合わさないように、背中を向けてその場に座った。



そんなわたし達を見て、壇君は溜め息をついた。






「い、一体何があったんですか?」



「何って…。いきなり、この女が俺を見た瞬間「おかっぱ!」とか叫びやがってよ」



「その通りでしょ!



だいたい君だって、わたしの服の事、変とか言ってきたじゃない!」



「そ、そんな事ですか…?」






た、確かに…壇君の言う通り



今思えば、あんな事で怒ったわたしは、かなり子供っぽい…。



けど、向こうだって同じなんだから、謝ろうとは思わない。



多分向こうもそう思っているハズ…。






「もう…向日さんもさんも、早く仲直りするです」



「「嫌だっ!」」



「はぁ〜…」






わたし達はお互いの言葉にムカッときて



絶対仲直りできそうにない、雰囲気になった。



そして、わたしと嫌悪ムードの子の名前が向日だという事が分かった。




壇君も諦めたのか、わたしの方へきて



持ってきたジャージを渡してくれた。



白の布地に、黒や青のラインの入ったデザインで



結構、わたしの好みの柄だった。






「これ、着て下さい。さんのジャージです」



「ありがと!わたし、このデザイン好みだよ」



「気に入ってもらえて、良かったです!」






壇君の笑顔につられて、わたしもニカッと笑う。



でも、壇君の着ているジャージを見て



わたしはある事に気がついた。






「あれ…でも、壇君のジャージとデザイン違うよ?」






わたしのジャージは青や黒系だけど…



壇君のジャージは緑やオレンジ…全く違うデザインだ。






「あ、コレは山吹のですから。さんのは、氷帝のです」



「え、わたしって氷帝側に入ってるの!?」



「えっ!だって…鳳さんと一緒に来てたですから…」



「い、嫌っ!壇君と一緒がいい!!!」






自分があの人達と同じチームだと思うとぞっとする。



わたしが唯一、心を許せる壇君とじゃなきゃ



これから、やっていけない気がした。




そして、わたしが壇君に必死にお願いをしていると



向日とかいう奴が、フンと鼻で笑ってきた。






「こっちだって、お前と同じチームなんてごめんだぜ!



壇!こいつ、山吹に入れろよ!」



「げっ!」






わたしと同じチーム。つまり、こいつは…






「あ、あんた氷帝なの!?」



「そーだよ。だから、お前は山吹行け」






全く…氷帝ってこんなのしか居ないのかしら…。



そう思いながら、わたしは向日の言葉に腹が立ち



ある事を決心した。






「…やっぱ、わたし氷帝でいい」



「はぁ!?山吹が良いんじゃねぇのかよ!?」



「だ〜れが、あんたの言う通りに動くもんですか!



氷帝に入って、あんたに嫌がらせしてやる!」



「ああ!?」



「あーもう!二人共やめるです〜!」






つまらない意地をはって、わたしは氷帝側に入った。



まだまだ不安な事だらけだけど



そんな中で、少しづつ光を見つけていきたい。



絶対、この闇の中から抜け出してみせるから!















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あとがき


えー…なにやらギャグっぽくなってしまった気が…。

まぁ、気にしないで下さいw(オイ

次は他のキャラもたくさん出せるといいなぁ〜…。