真っ暗な世界に一つの小さな光が落ちた。
その光の周りで、今戦いが始まろうとしていた。
キミのタメ
この妙な世界に来て5日が経った。
まだまだ不安はあるけれど、初めに比べれば少しはマシになった気がする。
少し物騒な会話や、銃なんかも結構慣れたし(四六時中見てるからね)
何より、壇君と言う癒しの場があるから。
まぁ、ここに居る以上、他の人達にも多少慣れておかないといけないけど・・・。
一人で洗濯物を干しながら、そんな事を考えていると
長い廊下の向こうから、誰かが騒がしくこちらに駆けてきた。
「さーん!!!ビッグニュースですーーー!!!」
大声で叫びながら走ってきたのは壇君。
でも、いつもと違って何だか顔が引きつっていた。
「どうしたの?そんなに慌てて・・・」
「た、たたた大変です!」
目を大きく見開いて、腕をブンブン振りながら落ちつかない壇君の様子を見て
わたしは良くない事があったのだと感じた。
「お、落ちついてよ!何が大変なの?」
「り、立海と不動峰が近々攻めてくるんです!!!」
「・・・リッカイトフドウミネガセメテクル・・・?」
「そうです!!!」
えーっと・・・確か、立海と不動峰はここの三大勢力の1つで・・・
同じくここの氷帝と山吹の人達もその1つで・・・
三大勢力はそれぞれ対立してるから・・・つまり・・・
―戦争?
「え、えええええええええ!!!???」
「やっと事の大きさが分かったですね・・・」(汗
ちょ、ちょっと待ってよ!わたしまだ、こっちの世界に来て五日目なんだよ!?
そんな戦いに巻き込まれたりしたら・・・絶対無事じゃ済まない!!!
わたしは急に怖くなって、壇君の肩を掴んで思いっきり揺らした。
「ど、どどどどうしよう!?死んじゃうかもしれないよ、私達!」
「ちょ、落ちついて下さいぃいぃ!!??」
ガクガク揺れて少し気持ち悪そうな壇君をよそに
わたしの頭は「死ぬかもれない」という恐怖で一杯だった。
「だって、銃で撃たれたら痛い過ぎて死ぬですよぉぉお!!??」
「さ・・・!文法が変になってるで・・・すっ!!!」
「はっ!そうだ!!!」
わたしは壇君から手を離し、ある事に気付いた。
そう。自分が雑用係だということに・・・。
「なぁんだ!わたしは雑用係なんだから、戦闘しなくていいんじゃん!」
そもそもわたしは『女だから戦いに出しても無意味』という理由で雑用係にされた。
つまり、戦闘にかり出される確立は0に近い・・・!
そう。わたしが死ぬ時はこの氷山城が崩れた時なんだ!
「ん?でも・・・結局は死ぬ可能性のあるって事じゃ・・・」
「あのー・・・喜んでる(?)所悪いんですが・・・」
わたしがいろいろ考えていると、少し顔色が悪くなっている壇君が声をかけてきた。
「ん?何?」
「雑用係の死ぬ可能性って、結構高いですよ?」
「・・・はぁ!!??」
ざ、雑用係の死ぬ可能性が高いって、どういう事!?
だって、雑用係は城の中で掃除やら洗濯やらしてるだけじゃ・・・!
「・・・さんの心の中の質問に答えるとですね・・・
確かに雑用係は直接戦闘には加わりません。でも、物資の調達や補給なんかは雑用係の役目です。
戦ってる皆さんが、いちいち城まで戻ってくる訳にはいきませんから・・・」
「そ、それってつまり・・・」
「雑用係も戦場には行くって事です。今、雑用係が減っているのは
そうやって物資を運びに戦場に出向いた戦闘の心得のない人が、油断して大勢殺されてるからなんです」
「う、嘘・・・」
も、もしわたしなんかが戦場に出たりなんかしたら・・・
秒殺されちゃう・・・!
そう事実を叩きつけられた瞬間、わたしは体全体の力が一気に抜け
その場にしゃがみ込んでしまった。
怖い怖い怖い。死にたくない。戦場になんか行きたくない。
そんな恐怖をかかえたわたしをよそに、廊下に慌しい足音が響いた。
バタバタバタと、まるで映画で軍隊が戦の準備をしているような、そんな足音。
恐怖は倍増し、真っ白で綺麗に干された洗濯物が
一瞬、赤く染まったように見えた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫・・・じゃないかも・・・」
否、絶対大丈夫じゃない。ものすごく怖い。
でも、どうしようもない・・・!
「壇!!お前らも少し武器を運ぶの手伝ってくれ!」
「宍戸さん!」
恐怖でいっぱいのわたしの耳に、聞き覚えのある声が入ってきた。
ゆっくりと声のした方を向けば、宍戸さんの姿。
宍戸さんはしゃがみ込んでいるわたしを見つけると、つかつか歩み寄って来て
わたしの顔を覗きこんできた。
「・・・怖いのか?」
「え?」
彼はそう言って、また長い廊下へと消えて行った。
その彼の一言は、何故かわたしの頭に強く残った。
そして、唖然としているわたしの肩をポンと壇君が叩く。
「さん!しゃがみ込んでてもしょうがないですから、手伝いに行くです!」
「う・・・うん」
そうしてわたしは、生まれて初めて銃を運ぶという体験をした。
* * *
―一方、その頃の不立城。
「さて・・・準備も出来たし、氷山城に出向くとするかぁ」
「待て、ブン太。お前は三番隊だろう?初めに行くのは弦一郎の一番隊だ」
真っ先に攻め入るつもりの丸井を参謀の柳が冷静に止める。
「なんでぇ、つまんねーの」
そう言われて、丸井は緑のガムをぷぅっと膨らませた。
そんな丸井を見て、一番隊の切原はフッと笑った。
「丸井先輩は俺の倒した奴とでも戦ってて下さいよ」
「ばーか!死体と戦ってどうすんだよ!」
「馬鹿者!戦が近いというのに・・・少しは緊張感を持たんか!!!」
騒いでいる3人を尻目に、五番隊である仁王とジャッカルは氷山城のある方向をぼぅっと眺めていた。
「・・・のぅ、ジャッカル」
「ん?何だ?」
「・・・いや。やっぱり止めとくわ」
「・・・そうか。ま、兎に角生きとけよ」」
「ああ・・・」
何か言いたそうな仁王だったが、ジャッカルは深くは追求しなかった。
そして他のメンバーは作戦の事などで話をしていた。
「では・・・不動峰の皆さんは裏手から、で間違いないですね」
「ああ。立海の方が死者が多くなるとは思うが・・・頑張ってくれ」
「分かっていますよ、橘君。不動峰の方が人数は少ないですからね」
「おい、深司!俺達の方が楽かも知れないぜ!」
「まぁ、別にそれは良んだけどさ・・・。それって俺達、当てにされてないって事?
なんだよ、それ。なんか、ムカツクなぁ・・・」
「・・・戦闘が近い時くらい、プラス思考出来ないのかよお前・・・」
氷帝&山吹VS立海&不動峰の大きな戦い。
そんな戦いを間近にして、抱く思いは人それぞれ。
そんな中、その戦いは始まろうとしていた。
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あとがき
かなり久々の更新です;;;
次回からようやく立海&不動峰が本格的に登場しますよー!(やっとか
亀・・・というより、もはやナメクジ並みの更新スピードですが
楽しんで頂けたら、幸いです。